私の場合120%ストレスですね。15年間営業をしたあと、国際事業部に配置になって、その時に経営を勉強したんです。そうしたらある地域の現地法人の社長を任されまして。5年後に帰国したのですが、現地のあとを引き継いだ経営者が放漫な人で、業績が悪化してしまい、その立て直しのために、また社長として戻ったんです。現地に入ると、あまりにひどい状況でしてね。事業を再構築する中で、工場で事故が起こったり、リストラもしなくてはならなかったり。妻いわく、当時の私は、笑ったことがなかったらしいです。
脳梗塞を発症したのは、600人の社員を前に屋外でスピーチしていた時です。寒い時期でしてね、心臓がドキドキして、そのあと、ガーン!って頭に衝撃がきて、急にしゃべれなくなったんです。意識はあったんですが、しゃべれないんですよ。スピーチは90%完了していたので、閉会で終わったんです。それから自分で自室に戻り、同僚に私の状態を伝えようと思い、ホワイトボードに文字を書こうと思ったんですが、文字も全然浮かばないんですよ。これはダメだと思って、別の部屋で休みました。でも、全然治らないんですよ。そうこうしているうちに、身内に脳梗塞になった人がいる同僚が「これは脳梗塞じゃないか」って、病院に連れて行ってくれました。でも、海外の病院なだからか、検査に時間がかかって大変でした。
数年前に、ふらふらっとしたことはあったんです(一過性脳虚血発作)。めまいも時々ありましたね、ぐるぐるって周りが回るんです(回転性めまい)。当時、降圧剤を飲んでいたので、主治医に報告したら、「薬を調整しましょうか」と言われただけでしたね。MRIも何も撮らなかったですし、大病院の先生なんですが、知らなかったんですかね。
脳梗塞の再発リスクがあるってことで、治療が落ち着いてから日本に戻ってきました。初めは助詞の使い方とか練習して、そのあと漫画を読むみたいなことしてましたかね。あのね、当時のSTの先生は3人で回していたんですけど、ある方が担当者ですと、一方的に話すんですよ。もっとスピーチの練習をしたかったですよね。会社に戻ったら、自分の意見が言えてなんぼですからね。
復職しても、納得いく仕事には戻れませんでした。うまく言葉が出なくて、仕事ができないと思われたりね。プライドなんてボロボロですよ。でも「これもリハビリだ」と思って。会社には行っています。もともと私は営業畑の人間ですから、もう一回、営業をやってみようと思っています。そのほうがもっと脳が回復するのではないかと思っています。
「あなたは、本当に相手のことを知りたいと思っていますか?」これは、以前、大ベテランの言語聴覚士の先生から指導された時の言葉です。
「私は患者さんがどんな人で、どんな仕事をしてきたのか、心から知りたいと思っています。だから真剣に言葉を引き出そうとしています」
衝撃でした。いえ、私も真面目に仕事をしていましたよ、でも心の中で「うーん、この言葉の出にくさをどう表現したらいいの...
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どんな内容であれ、仕事に戻ることで、お仕着せのリハビリ指導では与えることのできない強度のリハビリ的負荷を得ることができます。それによって得られる回復は、長期的には何もしなかったケースとは比較にならないほどのものです。
この確信があるからこそ、この冊子を作り続けていますが、Nさんが素晴らしいのはご自身で最もリハビリ的な負荷を得られるのが何かを考え、仕事の旧友らとそれを共有し...
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中途障害である高次脳機能障害は、キャリア形成期間が長ければ長いほど、培ったキャリアが高ければ高いほどに、喪失するものも大きくなります。特に定年によるリタイヤを控えた時期での受傷であれば、その喪失感のあまりの大きさからから「もう復職はいい」「働かなくてもいい」と諦観してしまうケースもありますし、周囲としても「あまりにもプライドが傷つくような復職は勧められない」といったシーンが往々にしてあります。
けれどNさんは、まさに中途障害の喪失感として最たる当事者でありながら、その後復職、定年退職後も再雇用で在職し続け、今後も職業人生を継続する気持ちで前進されています。
「最たる」とした理由はNさんがお勤めの会社が東証一部上場で日経平均株価の構成銘柄でもある著名メーカーで、Nさんご自身も海外支社の現地法人の拠点長、つまり経営サイドまでキャリアを高めた後の受傷だったから。
58歳、法人代表として社員を前にしたスピーチ中に、Nさんは突然の脳梗塞を発症し、言葉の機能と同時に、その地位も失ってしまいました。それでも前を向き続けるマインドは、いったいどんな経緯で得たものだったのでしょうか。
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