高次脳機能障害の診断まで15年
バイクで走っていて、車と衝突。頭からぶつかって25m吹っ飛んでしまった。その直前から記憶がないんです。後ろに乗せてた友人は、かすり傷だけ。不幸中の幸いですね。親は「ほとんど助からない」と言われたらしいです。
僕は半年後に目が覚めたと思っているんですが違いました。それまでは、ずっと頭に黒い膜が貼りついていた感じで、記憶にないんです。「お母さんのお腹の中にいた感じや」って言ってたらしいです。でも、2か月くらいで退院して、歩いたり喋ったりしてたし、ご飯も食べていた。高校にも行ったらしいですが、僕の中では夢の中の出来事って感じです。事故で歯が折れて、神経むき出しになったんです。普通は気絶するほど痛いらしいけど、これも平気だったらしいですね。ただ、一人で何もできないから、家族がいつも一緒にいました。何かと暴れまわっていたらしいです。ついに、父親が「施設に入れろ」って言ったんですが、母親が「そんなことしたら一生出られない」と言って反対したって聞いています。そんな時でも車の運転免許は取れたんです。その辺の経緯は曖昧ですね。
その後もトラブルだらけです。やくざに絡んで、殺されそうになったことは何回もある。なんせ記憶がない。嫌なことを忘れてしまうのは分かるとしても、めっちゃ楽しいことも忘れてしまっているんです。最初の妻とは離婚しています。よく怒るって言われたんですが、分からないんですわ。記憶にないから。当時は「高次脳機能障害」なんて言葉もないから「若年性認知症」って言われましたね。
一番、感謝しないといけないのは、「高次脳機能障害」と診断してくれた医者です。でも、その先生とも大げんかになったんです。原因は分かりません。今でも、病院には一人で行くなって、言われてます。怒ったり泣いたり、感情失禁がきついからですかね。でも障害って言われて「あ、そっか、それで人間関係がうまくいかへんし、仕事も続かないんか」と、ほっとするというか、すっとしましたね。でも、受け入れられなかったです。他人には言えないと思ってました。障害者手帳だって、嫌で、嫌で。五体満足で生んでくれたのに、障害者になってしまって、ごめんなさいって思いですね。
でも、家族に悲しい顔をさせたくないと思って、ようやく向き合うことにしました。それほど、家族は大切なんです。でも、そんな家族に対しても、怒ってしまうことがあるんです。そして、その前後の記憶は、いまだに、曖昧なんですわ。
未診断のまま様々な困難を経験してきた岡崎さん。
重度の記憶障害があるため、多くのトラブルにおいても、あまり本人は詳細を覚えていません。今回の取材はお母様に聞き取りをしたり、奥様同席の取材でした。
「記憶障害がある人は、嫌な体験を忘れるから、負の感情が積み重ならないんだよね」と思われがちですが、忘れていることに対する不安や恐怖感は、私たちが想像する以上のものであるようです...
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我慢できない」「わがままになる」といった文脈で表現されることの多い「易怒」の特性ですが、当事者の立場からすると、大変心外です。自分でもコントロールできないほどの怒りが猛然と湧き上がってきて、それを必死に抑えて抑えて、我慢しているのが、当事者の感覚だから。
多くの当事者がその発作的な怒りを、暴言や暴力といった形で発露してしまった後になって「なんで抑えられなかったのだろう」「...
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「とにかく、僕は運の悪い男や、世の中に僕ほど運の悪い男はいない、って思い続けてましたね」
歳で事故を起こす前の職歴は、八百屋や居酒屋でのアルバイトだったという岡崎さん。幸い身体に大きな麻痺は残りませんでしたが、医師から高次機能障害の診断は出ませんでした。告げられたのは「知能低下」のひとこと。けれど、岡崎さんが「運が悪い」と思ったのは、事故を起こしたことではなく、その後の仕事が全く続かなかったことについてです。
岡崎さんは事故の直後から「緑が脳の回復にいいかも」という周囲の勧めもあって、ゴルフ場でグラウンド整備のバイトを始めましたが、短期間でトラブルを起こし、辞めさせられてしまったと言います。
「あの時は、何かに腹を立てて、怒ってしまったんですね。職場で。相手は、マネージャーとか、そういうお偉いさんやったと思います。思いっきり怒鳴ったということは覚えてますけど、なんで怒鳴ったのかということは憶えてないんです」
高次脳機能障害の特性の一つとして指摘される「易怒(いど・怒りやすさ)」による、発作的な激怒。この怒りによる対人トラブルは、その後の岡崎さんをずっと苦しめ続けることとなります。
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